さて、エンジン翼下げ式の説明の説明をします。1950年代ジェット旅客機出現時には、2つの形式の利点の論争がありました。世界初の実用ジェット旅客機である英国のDHコメット機は翼付け根にエンジンを搭載しています。その後競って出現したソ連のTU104もこの形式でした。
ボーイング社は、爆撃機B-47の経験に基づき、エンジン翼下げ式のボーイング707を開発しました。
英国は、ボーイング707の垂直尾翼が大きい理由は、この搭載方式により方向安定が不足するためで、余分な抗力を生んでいる、と言っています。
方向安定不足というよりも、エンジン一発停止時の左右アンバランスに釣り合わせるため、と筆者は考えますが。それはともかく、確かにコメットの垂直尾翼は小さい。

当時は2対1でエンジン翼下げ式が負けていました。しかし、技術の世界は多数決で決める意味はありません。しっかりした、理論解析が必要です。

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やさしい航空技術ー空力設計

軽くてパワーの出るエンジン装備は飛行機の性能確保のために必須の要件です。ライト兄弟はこういうエンジンを入手することが出来なかったので、ついに自分でエンジンを自作しました。そこまでやる根性があったことに感心しますし、彼らがその必要性を強く認識していたことも重要な着目点です。
ジェットエンジンの時代になってもその必要性はは同じで、昔のジェットエンジンに比べて現代のジェット・エンジンは格段の性能向上が見られます。また、燃料消費率も動力装置全体としての重量を減らすのに寄与します。
空力設計グループは性能確保に責任を持たねばならないので、軽くてパワーの出るエンジンを追求します。

初期設計
外形形状
揚力
安定操縦
構造・装備との調和

ジェット・エンジンの性能向上には、圧縮機、燃焼器、タービンなど各要素の効率向上とともに、機体の特性に適したエンジンの形式(構成)を選ぶことも重要です。初期のジェット・エンジンは純ジェットと称して非常に単純な構成です。左図に示したバイパス比の大きい形式は、現代のジェット旅客機の燃料消費率改善に多大な寄与をしています。しかし初期のジェット旅客機用では、その複雑さ故、高バイパス比ファンエンジンは未開発でした。なお、戦闘機などの高速機には低バイパス比が適しています。また、かなり低速で飛行するコミュータ用機(小型低速、地域航空用)にはターボプロップが使われています。
ところで、機体の設計開発とエンジンの設計開発は、昔なら同じ会社で両方ともやっていました。しかし、現代では別々の会社でやっています。ホンダジェットは両方とも同じ会社製ですがこれは例外です。
本格的ジェット・エンジン・メーカーは世界で3社と寡占化しています。

注1

抗力
エンジン装備・構造
操縦装置・脚

騒音対策機体形態
エンジンを翼上に搭載し地上への騒音遮蔽を考えた形態

翼根 翼吊り下げ
抗力 エンジン部の表面積が少ない。垂直尾翼が小さくてよい。
などにより抗力小。
左に比して抗力大。
だが、程度問題。
×
重量 翼根の曲げモーメントが増えるに伴い、翼根の構造を頑丈にするため重量が増える。 × 左に比し、翼根の曲げモーメントが減り、翼根の構造重量が減る。
整備性 エンジンに接近するための空間が狭いため、整備性が悪い。
エンジン取外し、取付け作業が面倒。
× エンジン室の覆いを開けると直ちにエンジンに接近できて整備し易い。
エンジン取外し、取付け作業が容易。
安全性 エンジン火災時の類焼範囲大。 × エンジン火災時の類焼範囲はエンジン室だけに留まる可能性大。
その他 エンジンパワーアップなどの換装には改修範囲が広く、難しい。 × エンジンパワーアップなどの換装には、エンジン室の改修だけとなり、容易。

構造設計専門家が基本形態を考えると、左図のようになりかねません。
揚力、抗力のことをあまり考えないからです。
ここで、構造設計者が考えた最も有益な形態は、エンジンを翼にぶら下げることでしょう。
その利点は下に説明します。これは現在のジェット旅客機の定番形態でしょう。

初期設計から本格的設計開発体制になると、飛行機の規模によるけれども現代では100人以上の規模の設計要員からなるチームで編成され、専門ごとのグループを作ります。専門グループは空力、構造、装備、電気電子装備などに分かれます。専門グループに分かれると、どうも人間集団の常として、専門グループの利益を考える行動になりがちです。
そのため、初期設計の段階でしっかりした設計方針をまとめることが必要です。空力設計の役割は外形を決めることですが、決めるに当たって、空力的性能追求のみに集中すると、構造・装備設計グループ間でもめごとを生じることになります。そうならないためのコツを以下に述べます。

Copyright (C) 2010 by Hidehiko Nishiwaki Professional Engineer AeroSpace Registed No.45904 . All Rights Reserved

曲げモーメントがこれだけ減る。

DHコメットとボーイイング707

DHコメット

その技術とは、「遷音速、超音速飛行のための2大発明」、「20世紀後半における最大の空気力学への貢献」とも称され、2009年10月に死去したNASARichard Whitcomb 氏による「断面積法則」と「遷音速翼型」です。なお、ウィングレットも同氏によるものです。これについては誘導抗力の項で説明しました。これらを空力設計者は活用しない手はありません。そうすると上図のようになるでしょう。

注3


初期設計
外形形状
揚力
安定操縦
抗力
構造・装備との調和

音の壁はやはりあります。壁の高さは高いですが、乗り越えられないことは無いということです。また、壁に突き当たる速度を少しでも音速に近づけ、また、壁の高さを低くすることが可能な技術が見出されたからです。

ボーイング707

ファン空気流量を増し遅いファン気流を噴出し効率を上げる。ファン直径を増やすかわりにファン回転数を減らすため減速歯車を設ける。

注2 GTF=Geared Turbo Fan










エンジン装備・構造
操縦装置・脚

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エンジン装備・構造

エンジン翼下げ式の説明の前に、空力設計者の好む形態を説明しましょう。
現代のジェット旅客機は音速の少し手前の速度で巡航します。理由は音速に近づくと抗力が急に増えだすからです。音の壁という言葉が昔よく使われました。この壁は1947年10月14日に乗り越えられました。しかし、現在でもこの壁を乗り越えて巡航する旅客機はありません。いや、ちょっと昔にはありました。1976年に就航した超音速旅客機コンコルドです。しかし、その不経済性と環境破壊性から不評で、2000年7月のあのパリでの衝撃的事故を契機に2003年11月運航取止めとなりました。

エンジン搭載方法の例を左図に示します。最近のジェット旅客機では、@が定番という感じですが、ホンダジェットのような翼後部上載せという形態もあリます。機体の大きさ用途などによりまだいろいろありそうです。未来の設計者はもっとユニークなのを考えて下さい。

エンジン搭載方法

注3 オープンローターは高バイパスファンエンジンのダクトを外した形式

構造重量の比較のほかに、比較すべき項目があり、それらを左の表にまとめてみました。
実際には、重量や抗力を数値で示して比較します。
翼吊り下げ式は現在の旅客機では標準的方式となりましたが、将来もこれが標準かというとまだ解らないと思います。

翼付け根の曲げモーメント比較

空力設計では上述のように、性能要求を満たすのためのエンジン選定作業のほかに、エンジン搭載方法の基本計画もします。エンジンをどこに取り付けるかの問題で以下にそれを説明します。
また、空気取入口や排気ノズルの設計、騒音対策設計もありますが、かなり細部に亘り専門的になるので省きます。

注2


翼付け根の曲げモーメントを比較して見ます。飛行中翼が発生する揚力は翼付け根の曲げモーメントを増やします。一方エンジンを翼に下げると、翼付け根のモーメントを減らします。翼自体の構造重量や翼内の燃料重量も翼付け根の曲げモーメント減らしますがこれは両者比較の上では同じなので省きます。
翼付け根の構造は、このモーメントに耐えるため飛行機構造で最も頑丈に作るところで重量が嵩みます。これを減らせることは飛行機設計にとり大きな利点があります

低圧タービン

注1