しばらく航空事故のニュースを聞かないと思っていたら、最近、日本国内でも、事故のニュースが聞こえてきた。北海道での中日本航空軽飛行機事故(7月28日)、防災ヘリコプタ事故(7月25日)、海上保安庁ヘリコプター事故(8月18日)などである。これらは国内で報道されているので、ここでは触れない。海外では大型機の事故が起きている。
MD-10とその発展型MD-11旅客機は、かつて日本航空の主力旅客機だったけれども、いまではすっかり姿を消している。MD-11旅客機の貨物輸送機への改造型がMD-11Fである。この貨物輸送機のことは、2009年3月に成田空港で着陸に失敗して裏返し、パイロット2名死亡という事故を覚えておられる方も多いだろう。NHKのビデオにその一部始終がとらえられていた。
そのMD-11Fが7月27日午前11時38分、サウディアラビア・キングハリド国際空港での着陸時、ハードランディング(手荒い着陸)で大破した。パイロット2名は脱出したが負傷、機体の所属はルフトハンザ・カーゴ、フランクフルト発/リヤド/シャルジャ(アラブ首長国連邦)経由/香港行きの最初の行程であった。機体は、滑走路の左に停止し後部胴体破損が大きく大破。80トンの貨物のすべてと胴体上半分が焼損した。
MD-11は、着陸の難しい飛行機と考えられている。ルフトハンザ・カーゴやフェデラル・エクスプレスなどの運航会社は、この飛行機の特性のためパイロット慣熟に特別訓練を導入している。MD-11はMD-10より重量が重く胴体が長い。しかし翼はほとんど同じ寸法なので、着陸進入速度、離陸速度が増加している。重心位置は、他の民間航空機よりも後方にしている。これは機体の固有安定度は減ずるけれど、コンピュータによりそれを補う方式を採用している。こうして、巡航飛行時の抗力を減らし燃料消費を改善するという設計である。
内部運用基準の中で、着陸進入速度は通常は最大160ノットとすること、滑走路端から1000〜3000フィート以内に接地すること、それに失敗したら直ちに着陸復航すること、とルフトハンザ・カーゴは定め、パイロットに早めの接地を促している。しかし、この滑走路は13,796フィートもあるので、他のルフトハンザ・カーゴが使う滑走路より短いはずはない。早めの接地にプレッシャーがかかるほどでもなかろうと思われる。類似の着陸事故をルフトハンザ・カーゴは2009年9月13日にメキシコシティで起こしている。この事故では検査で胴体のシワが見つかったが、修理し運用に復帰している。もう一つは前記の成田空港でのフェデラル・エクスプレスによる事故である。ルフトハンザ・カーゴ社内でこの飛行機の退役を議論しているようである。
着陸事故ではないが1997年6月8日、日本航空のMD-11が乱気流に遭遇し、客室乗務員が事故時の怪我が原因で死去するという事故も起きている。航空事故調査委員会の報告書にもとづき、パイロットの操作について疑いが持たれ、パイロットへの起訴、裁判となったが無罪であった。判決は2007年8月のことで事故発生から10年の歳月がかかっている。航空事故調査委員会の報告書にもとづいて起訴したことに、パイロット組合等から猛烈な反対意見が出ていた。当然である。
MD-11はボーイング747よりもさらにハイテクを駆使した新型機というふれこみのもとに、日本航空はじめ各国で運用されていた。しかし、上記の事故以前にも類似の事故が発生しており、各エアラインは旅客機としての運用は断念、償却前に貨物機運航会社へ売却した。まさにこの売却は正解であった。上記のありさまというわけである。貨物機運航会社もこの機体にはもてあまし気味だろう。買い替えを真剣に考え始めていると思われる。国産機XC-2の民間転用型(YC−X)に声がかかっても良さそうなのだが。
以上
2010年7月27日MD-11Fの事故